ハイレゾ対応DAP 初号機『YJ-01』


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スペック

DAC

PCM5102A

AMP

MUSES 8820D

再生能力

PCM 最大384kHz/32bit

S/N比

112db

バッテリー容量

1,000mAh 

最大駆動時間

4.5h (実測値)

製作のきっかけ

「いつかはハイレゾDAPを自作する!」こう心に誓ったのが製作の始まりです。約4年前に、高専に入学した頃からオーディオに興味をもち始めました。iRiver社のAstell & Kern AK320 や SONY社のWALKMAN NW-WM1A といったハイエンドDAPをいくつか聴き込みました。それぞれのDAPで違った良さがあり、各メーカーの意気込みを感じました。そこから現在に至るまでの間に、他のDAPも視聴していく中で、好みの音を見つけ出していきました。

余計な味付けのない原音に忠実な音

 “余計な” には、必要以上に各帯域を前に出さないといった意味を込めてあり、余計でない味付け、すなわち本来の音の良さを引立てる演出は問題ありません。本来の音の良さを引き立てる演出とは、音源のベースライン(~50Hz)の強化や過度な高音域(25,000Hz~)のカットを意味します。これを実現すべく、自作DAP 初号機 『YJ-01』の製作が始まりました。

主要部品の選定

DAPを構成するためには、大きく分けて次の3つの段階を必要とします。

1.ストレージ(音楽データ)  ➡  2.DAC(D/A変換)  ➡  3.アンプ(信号の増幅)

 

1. ストレージの選定

 まず初めに取りかかったことは、音楽データを保存して、それをDACへ送るためのマイコンの選定です。マイコンというと代表的なものにArduinoが挙げられますが、今回の製作ではWiFiモジュールやSDカードスロットを備えていて、比較的小型なRaspberry Pi Zero WH(通称ラズパイ)を使用することにしました。ラズパイは高性能なため、HDMI端子やLAN端子を備えていますが、いずれも今回の製作では使わないため無視することにしました。

 WiFiを用いて他のデバイスからDAPを操作することになる訳ですが、実はこのWiFiモジュールが放つ電磁波は、音質にとって大敵です。なぜなら、下段に接続されるDACやアンプでノイズが発生する原因となってしまうからです。しかし、WiFi経由で操作すると決めたからには、対策を徹底する必要がありました。

2. DACの選定

 ひとことでDACといっても、膨大な数のDACが存在します。今回の製作では、ラズパイの出力方式であるI2S(Inter-IC Sound)での接続が可能で、かつ下段のアンプとの接続を簡単にできる電圧出力のDACを選定する必要がありました。吟味した末、以下の2つに絞り込みました。

旭化成エレクトロニクス社 AK4490EQ
・Burr-Brown社 PCM5102A

どちらも有名なもので、前者は冒頭で触れたiRiver社のAK320に搭載されています。

 

出典:秋月電子通商http://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-13554/

                            ・http://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-11836/

スペックを比較すると

・AK4490EQ     PCM 最大768kHz/32bit、S/N比115db

・PCM5102A    PCM 最大384kHz/32bit、S/N比112db

PCM入力のサンプリングレートを見ると、AK4490EQがPCM5102Aに2倍差で勝っていることがわかります。また、S/Nを見てみると3db差と一見大差ないように思えますが、オーディオの話となると数dbの違いでノイズの発生度合いが大きく変わってきてしまいます。[db]を[倍]の表記に直してみると

112[db] → 398,107[倍]                   115[db] → 562,341[倍]

ノイズの発生度合いに1.5倍近くの差があることがわかると思います。たとえ3dbの差でも、使用するイヤホンによっては、音量を上げた時にハッキリと違いが出てくるポイントだと言えます。スペックだけを見るとAK4490EQを選びたいところですが、PCM5102Aに比べてICのピンの数が圧倒的に多いのが特徴のDACです。配線にスペースを取られてしまうと、アンプ周辺の回路スペースに心配が出てきてしまうため、今回はその点を考慮してPCM5102Aを使用することにしました。

    余談ですが、私の大好きな宇多田ヒカルハイレゾ音源はサンプリング周波数96kHzが現状で入手できる最高音質なので、その点だけを考えれば最大384kHzのPCM5102Aで問題ありません(笑)。

3. アンプの選定

 DAPの設計において、アナログ信号をできるだけ短い経路でスピーカーに渡してあげることが高音質化への鍵となります。本来であれば、DACから出るアナログ信号を直接スピーカーに渡したいところですが、DACの出力が十分に足りる場合においての話になります。接続するスピーカー(イヤホンやヘッドホン)によっては、DACが十分に出力できる電力の範囲を超えてしまう恐れがあるからです。これを防ぐための手段として、アンプの接続を考えます。

 DACと同様に多くのアンプICが存在します。今回の製作では、ある程度のS/N比を保持していて、イヤホンを十分に駆動することのできるアンプICを選定します。せっかくDACが高音質の信号を出力しても、アンプで台無しになってしまってはいけないので慎重に選定します。吟味した末、オーディオ用高音質オペアンプ MUSES 8820Dに決定しました。

出典:秋月電子http://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-03706/ 

上位互換であるMUSES 01Dとも悩みましたが、他の部品とのバランスを考えてMUSES 8820Dで妥協することにしました。ちなみに、値段はMUSES 8820Dが¥400なのに対して、MUSES 01Dは¥3,500と10倍近くの差があります。

 その他周辺部品の選定と実装

コンデンサの役割

周辺部品には多くのコンデンサが使用されています。

ここで、コンデンサーの大きく分けて4つの役割を紹介することにします。

1.電気(電荷)を貯めて必要な時に放電する
2.回路の電圧を安定化する
3.直流を遮断し、交流を通す(カップリング)
4.ノイズを逃す(デカップリング)

  1. の役割の代表例として、使い捨てカメラのフラッシュがあります。シャッターを切る瞬間にコンデンサから一気に電荷が放出されることで、光となって現れます。1度シャッターを切ってから次にシャッターが切れるようになるまでに少々時間がかかるのは、コンデンサの充電に時間を要しているからです。

 2. の役割は、今回の製作において電源回路に大きく貢献しています。リポバッテリー1セルの電圧3.7Vからアナログ回路で必要な電圧3.3Vを作るために、一旦5.0Vにスイッチング昇圧後、そこからレギュレータで降圧することで3.3Vを得ています。作り出された3.3Vは、負荷(DACやアンプ)に流れる電流の変動により不安定になってしまう場合があります。音源が比較的静かなAメロ・Bメロから、ドラムの激しいサビに突入して急激にスピーカーで消費される電力が上がった、などの場合には注意が必要です。今回の製作では、レギュレータの出力側に大容量のコンデンサを用いることで、より安定した音の立ち上がりの実現に貢献しています。


▼電源回路

 

   3. の役割は、コンデンサの本質に直結します。コンデンサは、「時間に伴って電圧の大きさや電流の流れる向きに変動のない直流」を遮断して、「電圧の大きさや電流の向きに変動のある交流」を通過させる役割があります。交流回路において、電圧と電流の比を表すインピーダンスZ[Ω]の大きさはコンデンサの場合において以下の式で示されます。

 

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コンデンサインピーダンスは、角周波数 ω=2πf に依存します。入力信号の周波数が高いほど、インピーダンスが小さくなり、信号の通過性が良くなることがわかります。

 今回の製作では、アンプの入力と出力の両方にカップリングのためのコンデンサを用いることで、音声信号(交流信号)のみを通過させるようにしています。いわば安全装置のようなものと考えるとわかりやすいと思います。

 基本的に、どの種類のコンデンサを用いても上式のような振る舞いを見せるのですが、素材によって若干得意とする性質が異なります。特に、カップリングコンデンサは音声信号の直接の通り道であるため、選定は音質に大きく影響します。検討の末、コンデンサ固有の抵抗値が非常に低く、ノイズ吸収特性に優れている 日本ケミコン 高分子アルミ固体電解コンデンサを使用することにしました。ブレッドボードに刺さっている、青色で円柱形の部品がこれにあたります。

DACの動作確認中
 
    4. の役割は、回路に乗る高周波成分からICを保護する上で大変重要になります。カップリングと違い、音声信号の通り道に用いるのではなく電源-GND間に用いるのが一般的です。上式に基づいて、0.1μF程の小さな容量を用いることで高周波成分(数MHz~)をGND に逃すことができます。今回の製作では、およそ20個のカップリングのためのセラミックコンデンサを使用しました。
 

遅延回路

   マイクに電源を投入した時などに、「ポンッ」というポップノイズを耳にした経験があるかもしれません。実はDAPにおいても同様の現象が発生します。主電源を入れて間もなく、アンプからやや大きめの電力が出力され、接続されているイヤホンやヘッドホンにダメージを与えることに繋がりかねません。これを防ぐために、タイマーICと機械式リレーを用いた遅延回路を製作しました。タイマーICには、代表的なタイマーIC555を使用しました。今どきアナログな機械式リレーを用いた理由は、フォトリレー などの電気的なリレーに比べて接触抵抗や内部抵抗が小さく、音質を損なわないと考えたからです。主電源を入れてから約10秒後に、出力端子が導通する仕組みになっています。

▼遅延回路

 DAPの動作確認

   部品の取り付けが終わり、基板を筐体に収める前に音質確認を行いました。DAC単体での視聴に比べて、音がよりハッキリとしていて、低音の量感が増した印象でした。みのむしクリップで配線されているためか、若干ノイズが乗って聞こえましたが、筐体に収納後の電磁波の遮断効果に期待しました。


DAPの動作確認中(遅延回路取り付け前)

 筐体への収納

   筐体には、アルミニウム素材を使用しました。基板を筐体に収める際に、回路のGNDを筐体にアースすること(GNDの低インピーダンス化)で更なる高音質化に期待しました。筐体への収納後に、基板が裸の状態で聞こえていたノイズが少なくなり、筐体による電磁波の遮断効果を感じ取ることができました。


▼基板を筐体の半分に収納(1/3)
 

▼基板を筐体の半分に収納(2/3)
 

▼基板を筐体の半分に収納(3/3)